Alexander and the Wind-up Mouse

 
「たすけて!たすけて!ねずみよ!」叫び声とガラガラという音。
あちらこちらからコップにお皿、そしてスプーンがとんできます。
アレクサンダーは小さな足で一生懸命走り、大あわてで穴にもどり
ました。
アレクサンダーが欲しいのはほんの少しのパンやお菓子のかけらだ
けなのですが、いつも人間たちはアレクサンダーを見つけると、大
きな声で「たすけて!」といい、ほうきを持って追っかけてくるの
でした。

家の中に誰もいないある日、アレクサンダーは、アニーの部屋から
鳴き声するのに気がつきました。アレクサンダーはおそるおそる部
屋に入ると、何を見つけたと思います?ネズミがいたのです。でも
、アレクサンダーのようなネズミでありませんでした。足の代わり
に、二つの車輪、そして、背中にはねじ巻きがついていたのです。
「あなたはだれ?」アレクサンダーはたずねました。

「ぼくは、ウイリー、ぜんまいじかけのネズミさ。アニーのお気に
入りのおもちゃなんだ。」「人間たちは、ぼくのねじを巻く、する
とぼくは、ぐるぐると走り回るんだ。抱きしめてくれることもある
し、夜になるとお人形さんと、ふわふわとしたくまのぬいぐるみに
はさまれてやわらかな枕の上で寝るんだよ」。
「ぼくのことはあまりかわいがってくれないんだ」とアレキサンダ
ーは悲しそうにいいました。でもアレクサンダーは、友達を見つけ
てとてもうれしくなりました。「台所に行ってお菓子のかけらでも
みつけようよ」とアレクサンダーはいいました。
「だめだよ。ぼくはそんなことはできないんだ」とウイリーがいい
ました。「ぼくはだれかがねじを巻いてくれないと動けないんだ。
でもそんなことぼくは気にしないよ。だって、みんなぼくをかわい
がってくれているからね」。

アレクサンダーもウイリーを好きになりました。アレクサンダーは
いつもウイリーのところへ遊びにいくようになりました。アレキサ
ンダーはウイリーにほうきで追っかけられたことや、お皿が飛んで
くる様子、そして、ネズミ取るための罠のことなど、はらはらどき
どきするお話をしてあげました。
二匹はとても仲の良い友達で、いっしょにいるだけでとても楽しか
ったのです。

でもアレクサンダーが暗い隠れ家でひとりぼっちになると、ウイリ
ーのことがうらやましくなります。
「あー!ぼくもウイリーのようにぜんまいじかけのネズミになりた
い。そうすれば抱きしめてもらったり、かわいがってもらえるのに」

ある日、ウイリーが不思議なお話をしてくれました。ウイリーは小
さな声でヒソヒソと話し始めたのです。「庭の砂利道がとぎれると
ころ、そう、黒いちごの茂みの近くさ。魔法使いのトカゲさんが住
んでいるんだ。そして魔法使いのトカゲさんは動物を他の動物に変
身させることができるらしいよ」。
「トカゲさんは、ぼくを君みたいなぜんまいじかけのねずみに変え
てくれるということなの」とアレクサンダーはいいました。

その日のお昼のことです。アレクサンダーは庭に行き、砂利道のと
ぎれるところまで走っていきました。「トカゲさん、トカゲさん」
アレクサンダーは、小さな声で呼びかけました。すると、突然、き
れいなお花とちょうちょの色をした大きなトカゲがあらわれたので
す。
アレクサンダーはふるえながら、「トカゲさんはぼくをぜんまいじ
かけのネズミに変えてくれることができるて聞いたんだけど、それ
は本当なの?」とたずねました。
「満月の夜、紫色の小石をもっておいで」とトカゲはいいました。

来る日も来る日も、アレクサンダーは庭で紫色の小石をさがしまし
た。でも見つけることができません。黄色や青色、緑色の小石は見
つかるのですが、紫色の小石はかけらさえもありませんん。

とうとう疲れてお腹がぺこぺこになり、アレクサンダーは家にもど
ることにしました。
すると物置部屋のかたすみにおもちゃのいっぱい入った箱を見つけ
たのです。中には、積み木やこわれた人形に混じってウイリーがい
たのです。「どうしたの、ウイリー」アレクサンダーは驚いてたず
ねました。
ウイリーのお話はとても悲しいものでした。アニーのお誕生日の日
のことでした。お誕生会があり、みんなアニーにプレゼントを持っ
てきたのです。「その次の日のことなんだ」ウイリーはため息をつ
き「古いおもちゃはみんなこの箱の中に入れられたの。ぼくたちは
みんなすてられてしまうのさ」といいました。
アレクサンダーは泣きそうになりました。「かわいそうなウイリー」。
その時です。アレクサンダーは箱の近くに何か落ちているのに気が
つきました。もしそうだったら・・・?きっとあれにちがいない!
なんとそこには小さな紫色の小石が落ちていたのです。

大あわてでアレクサンダーは、大事な小石をしっかりと持ち、庭へ
走っていきました。そしてその夜は満月だったのです。ハアハアと
息を切らしてアレクサンダーは黒いちごのしげみの近くで止まりま
した。「茂みのなかにいるトカゲさん、トカゲさん」とアレキサン
ダーは早口で呼びかけました。葉っぱがかさかさという音をたてた
かと思うと、そこに魔法使いのトカゲが立っていました。「今日は
満月の夜だ。小石を見つけたんだな」と魔法使いのトカゲがいいま
した。「きみの願いはなんだ」。

「ぼくの願いは・・・・」といってアレクサンダーは声をとめまし
た。そして、あわてて「魔法使いのトカゲさん、トカゲさん、ウイ
リーをぼくのようなネズミに変えることができますか」と言ったの
です。
魔法使いのトカゲは、まばたきをしました。すると、目もくらむよ
うな光が・・・。そして、あたりとても静かになりました。紫色の
小石は消えてなくなっていたのです。

アレクサンダーは急いで家にもどりました。

箱はありました。でもなんということでしょう、空っぽだったので
す。
「遅かった」。悲しくなったアレクサンダーは、壁の中の穴に帰る
ことにしました。

どこかでちゅーちゅーという鳴き声がします。アレクサンダーはお
そるおそる壁の穴に近づきました。なんとそこにはネズミがいたの
です。

「きみはだれ?」とアレクサンダーは少し驚いてたずねました。
「ぼくは、ウイリーさ」とネズミはいいました。

「ウイリー!」アレクサンダーは大喜び。「魔法使いのトカゲさん
・・・トカゲさんはぼくの願いをかなえてくれたんだ!!」アレキ
サンダーはウイリーを抱きしめ、そして二匹は庭に走っていき、夕
暮れまでダンスをしました。